2008年1月26日土曜日

抜け殻のダボス

5年前は輝いていたダボス会議も最近はあまり重要ではない事が今年の参加者の顔ぶれからも想像できる。では世の支配者達はどこで秘密の会合を持つのか。私ならアイスランドあたりがいいと思うのだが、そのアイスランドで先週米国の英雄が孤独な死を迎えた。日本でも報道されたのでご存知の人も多いはずだが、その人の名はBOBBY FISCHER。彼は冷戦がピークを迎えた70~80年代の米国の英雄である。ではなぜ彼は英雄だったか。

以前HBOのスポーツドキュメンタリーの「ミラクル」を紹介した。これは80年のレークプラシッド冬季五輪直前にソ連がアフガンに侵攻し、国際的批判の中、敢えて国威を世界に示す為にソ連が米国本土で行われるその冬季五輪に選手団を送り込んだところからドラマは始まる。元来米国はアイスホッケーの先進国だったが、60~70年代にかけては職業は軍人だが実質プロ集団のソ連五輪代表チームに歯が立たなくなっていた。そんな中で熱血感コーチのブルックス氏が米国五輪チームに来た。彼は大学生を中心としたチーム編成を行い、五輪に臨んだのである。

しかし事前の国際マッチの結果からは米国はよくて入賞という実力だった。だが学生を主体とした米国チームは一試合ごとに進化し、最後にはありえないと思われた奇跡を起こした。ソ連代表チームは入国するや、慈善試合で組まれたNHLプロ選抜チームを蹴散らし、この米国五輪チームを練習試合では13対1と圧倒して米国民を震撼させた。ところが、進化した米国の若者達はこのソ連を本番でやっつけてしまったのである。これは真に奇跡だった。70年~80年代の重苦しい雰囲気の中、(個人的にはこの様な時代が再び始まるとみるが・・)普段は奇跡という言葉を安易に使わない米国人がこの時ばかりは歓喜した。そして一番歓喜したのはカーター大統領だった事は言うまでもない。

この勝利はスポーツイベントと言う現象を超えた。当時米国はイラン大使館人質事件でその権威を失墜し、また国内は失業とインフレに苦しんでいた。そこに正にソ連の脅威が差し迫った感があったが、この勝利は米国に活力を与えた。後に米国はレーガンによって冷戦を勝利する訳だが、転換点がこのホッケーの試合だったと評する意見もある。

そしてその奇跡から遡る事8年の72年、一人の米国人がソ連を相手に最初の奇跡を起こしていた。それがBOBBY FISCHER氏である。彼はシカゴで生まれNYで育った生粋の米国人だが、彼はそれまでソ連が数十年間死守してきたチェス世界1のタイトルを勝ち取ったのである。米国人がこのタイトルを取ったのは後にも先にも彼だけ。よってこの時の米国の歓喜は察する事が出来る。

そのFISCHER氏がアイスランドで孤独な死を迎えた先週、縁のあるシカゴでは各新聞が一斉に彼の特集を組んだ。詳細は省くが、個人的に興味を引かれたのは彼は突然反ユダヤ主義者になった事。その経緯の説明は様々な解説だったが、私には常に先の展開を読みながら局面を判断するチェスの思考回路が何かを示唆した様な気がしてならない。

恥ずかしながら、私も仕事柄かインナーサークルにいなくとも時に現象面とその見えない背景が点と線として閃く事がある。私自身は反ユダヤではない。ただソレがユダヤではなくとも、世界に支配者階層は存在し、世界各地で起こる現象面のシナリオを描いている事は否定しない。そして彼等は今ダボスにはいないだろう・・。

2008年1月18日金曜日

史上最大のローカル選挙

ヒラリーが出演する事もあり、日曜日に久しぶりMEET THE PRESSを見た。驚いたのはいつも冷静にジャーナリストとして的確な質問をするホストのテイムラサート氏がヒラリーに絡んでいた事。(過去の彼女の発言から質問を繰り返す)これにはヒラリーも何度も切れそうになっていた。

さて米国内は選挙においても経済が重要課題になった。それを受け候補者は一斉に大風呂敷を敷き始めた。先日ヒラリーが80BILの刺激策を発表すると、本日オバマはソレを上回る120Bの刺激策を発表した。

二人とも今の段階では何でも言える。それに対し共和党は基本減税路線で全員が一致している。玄人筋には実現性などどうでもよい民主党案より、これまで同様の市場重視のサプライサイダー、フリードマン路線の方が安心感があるのは事実。しかし今の米国は経済面では素人の感情論が数の上では圧倒的に優勢だ。なぜなら、金融を中心に景気が良かった時も、大多数の中間層以下にはフリードマンの恩恵は届いていなかったkらだ。

いずれにしても、選挙の争点は実効性よりも感情論優先になる事は間違いない。そんな米国をほかの国はどう見ていくのか。ヒラリーとオバマの争いは、女性/男性、黒人/白人、若者/中高年という構図で国内世論は盛り上がっている。。

2008年1月10日木曜日

日本の覚醒

昨日のNH(ニューハンプシャー州)での予備戦の結果、このIL(イリノイ州)では面白い現象が起きている。ILはオバマとヒラリーの地元だが、2/4のIL州予備選に向け、今まで選挙に興味がなかった人々が早々と登録を開始したという。NHではヒラリーの涙が起死回生となった事は間違いないが、今回ILで新たな階層を含めた老若男女を選挙に駆り立てている背景は何か。それは変革に希望を見い出したい若者と、ブッシュからの変化は望むもののリタイアを控え、オバマまでの変化には不安を感じる中高年と、そして純粋にヒラリーを応援したい女性層が覚醒したからだ。いずれにしてもこの覚醒エネルギーの動向を予想する事は誰にもできないだろう・・。

ところで年始のNHKクローズアップ現代は非常に良く出来ていた。ここでプロ向けに数年もかけて解説したグローバルマネーの潮流変化を一般向けに非常に解り易く紹介していた。ゲストとして榊原氏と三菱の水野氏が招かれていたが、彼らは共に米国の衰退と年後半からの中国のスローダウンの可能性は日本にとって禍という意見で共通していた。だが私はその意見に同意できない。

そもそも現象面の解説と次に起こりそうな事象を予想するのが評論家やアナリストの仕事だ。ただ彼らの言う事を聞いているだけでは必要な変化は起きない。米国の渾沌とそれに伴う世界の流動化は本当は日本の覚醒の為のチャンスと考えるべきである。

まずどの時代も口では変化を唱えながら実際にはソレを望まない層と、本当に爆発する力を持つ層と分かれる。例えば明治維新。維新は薩長が主役が定説。しかし両藩の中でも幕府の衰退を感じ倒幕を叫びながらも実は変化を望まなかった層と、実際に維新の起爆になっていった者達を本来一緒にすべきでない。物語の趣旨は違えどその辺りは今年の宮尾登美子の大河ドラマが参考になろう。個人的歴史観では後に元勲と言われた西郷や桂はどちらかと言うと前者で、彼らは途中から圧倒的な変革のエネルギーに迎合していったと感じる。

それに対して初期の段階でバカな挑戦をした代表は高杉だ。端に位置した長州と薩摩が最初に外国の力に遭遇、結果討幕に傾いたのは必然。しかし高杉がまだ保守的だった長州藩の守旧を打破らなければ維新そのものが始まっていなかったはず。それ程農民の兵力化は当時としてはバカな挑戦だった。その意味でこの時代最大の英雄は元勲でも竜馬でもない。竜馬ファンには異論があろうが、個人的には彼は変化の可能性をがなければサッサと日本を捨てていたタイプとみている・・。

では必要な変化を日本で興すにはどうしたらよいか。そもそも必要な変化が何であるかの認識も定まっていない。MEDIAをみてもNHKは明らかに米国型市場原理から離れようとしているのに対し、日経は欧米型の市場ルールの徹底と完成が最重要と見ている様だ。前者は総論を、後者は各論を言っているだけのようだが、そんな中で一番重要なのは、米国がどうなろうとも日本までが自信を失う必要はないという事。今の日本は自分で自分を信じいてない感すらあるが、そんな国が他にあるのか。

この変化に必要なのは外国の諸事に明るい人ではなく、日本を誇れる人だろう。政治家はまずその点に気づき国民を導く必要がある。しかしこの日本の覚醒は戦後一貫して米国が避けてきた事。よってこれまでは実現が難しかった。しかし米国自体が渾沌とした今、実はチャンスが到来したのである。このチャンスに陰気な法律家や経済評論家は不要。ましてや米国が傾いて狼狽している政治家などは愚の骨頂だ。

ズバリお金を使おう。特に嘗て「新人類」と言われた世代は今はバカになってお金を使うべきだ。お金を持っているのは今からリタイヤする団塊の人々だろう。だがこの世代は米国支配の影響を一番受けた人々でもある。一方新人類よりも若い世代は日本が勝ち組だった時代を全く経験していない。デフレしか知らないこの世代に期待するのは酷だ。よって責任は勝手世代と揶揄された新人類世代である。

私を含めこの新人類に今どれ程消費力が残されているか判らない。しかしこの世代が立ち上がらなくてどうする。米国の選挙は非常に面白い展開だが、新人類よ、目覚める人を見て自分達が目覚めよ。

2008年1月5日土曜日

ビンラディンと大石内蔵助

アルカイーダがブット女史暗殺の実行犯として声明を出した。ただ一口にアルカイーダと言ってもその中身が色々あるのは最早常識。ではその中で一番怖いアルカイーダは誰か。それは金の力が及ばない魔境に住むアルカイーダである・・。

アラブには金がある。そこでテロを起こす連中は結局金の価値を信じる親分によって踊らされた貧乏で無知な若者であるケースが多い。しかし、パキスタンやアフガニスタンにかけて暗躍するアルカイーダ組織では、親分は簡単には金では動かない。なぜならビンラデインは元々金持ちでありながら信念でこの地域にこもった男だ。彼が生きていようが死んでいようが、そのカルチャーは他の連中とは恐らく異なる・・。

所変わって江戸時代の日本。天下太平の世で些細なミスで殿さまが切腹、お家は断絶、藩士は浪人になった。条理がない。しかしこんな事は当時日常茶飯事だった。よってだからと言って徒党を組み誰かを仇討をするなどあり得ない。幕府当初その処置の不味さを反省しながらも、物理的可能性より平和な時代に生きる人間がそんな愚かな狂人的行動をするはずがない・・とタカをくっていた。

同意だ。仮に今の時代に生きる自分がタイムスリップしてこの時代に直面しても、私は赤穂浪士には加わらないだろう。なぜならその時代は男のロマンが充満していた戦国時代ではない。太平の世ではそんな事をするより、他藩へ仕官する道を探した方がましだ。しかし、紆余曲折がありながらも、お金や仕官へなどの誘惑を振り切り、目的を達成した狂人連中がいた。そしてそのプロジェクト導いた恐ろしい男が本当にいたのは事実だ。

ところでテロ直後、魔境を中心とする一部の世界ではブッシュよりもビンラデインが支持されていると聞いた時、私は面白半分に聞き流しただけだった。しかし今は違う。我々がペーパーマネーゲームに興じている時、この魔境では金の魔力が効かない恐ろしい連中が直実に育っていたのである。そして我々の世界、即ちお金の世界の限界(インフレ)が見え始めた今、この連中をただの狂人として笑い飛ばす気は失せてしまった。彼には赤穂浪士のような信じるものがある。そしてその信念は私には恐ろしい。今は笑い飛ばすどころか心から恐ろしいと感じるようになった。

最後には「アラブのルール」で何とかなるかもしれないイラクとはまた違った恐ろしいこの魔境に米国はどう対処するつもりなのか・・。